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June 11, 2009

【長編】小さなイクラ丼

学生の頃、学校の隣にあるファミレスでバイトしてました。
※キッチンではありません
主に深夜帯担当で、キッチンの人と一人ずつで働くことが多かったです。

お客さんが一人もいなくなるほど暇だったある日のこと。

ピヨピヨピヨピヨ

とお客さんが入って来たことを知らせるチャイムが鳴る。
エントランスに向かい、声をかける。

『いらっしゃいませ!お客様、何名様ですか?』

入ってきた男性は、人差し指を立てて一人であることを伝える。
他に誰もいないので、

『お好きな御席へどうぞ』

と伝え、お冷ややシルバーを取りに裏へ。
キッチンに入店があったことを伝え、男性の元へ。
お冷や、シルバー、灰皿の三点セットを置き

『ご注文お決まりになりましたら、そちらのボタンでお知らせ下さい』

とお決まりの台詞をはいて、また裏へ。
キッチンの人と、

『結構食べそう?』
『いや、そうでもなさそうですよ』
『ヘビーだったら嫌だなぁ』
『ですねー』

と話していると、ベルが鳴る。
念のため確認すると、男性の席の番号が表示されている。
席に向かい

『ご注文、お決まりですか?』

と、尋ねる。
男性は

『和風ハンバーグと小さなイクラ丼』

と若い男性にしてはヘルシー指向のオーダーをした。

『和風ハンバーグと小さなイクラ丼ですね?』
と注文を繰り返し、間違いないことを確認して、裏に戻った。

和風ハンバーグは、ハンバーグの上に大根おろしが乗っていて、醤油ソースが添えてある。
小さなイクラ丼は、漬物用の小鉢に、ご飯とイクラ、錦糸卵、きざみのりが乗ったものだった(確か)。
おそらく20代と思われる男性が食べるには、物足りないのでは?と余計な心配をした。

キッチンから料理が出て来るまでの時間、閉店に向けた作業を進めた。
一刻も早く帰りたいから。
しかしながら、次の時間帯で働く人が少しでも楽になるように配慮しながら。
程なくすると、キッチンから

『出来たよー』

と呼ばれたので、料理を受け取り、お箸を一膳持って男性の席へ。料理をテーブルに置きながら、

『和風ハンバーグと小さなイクラ丼です。』

と持って来た料理名を告げる。
オーダーミスはしてませんよ!というアピールである。

『ご注文の品は以上でお揃いですか?』

と尋ねる。
今になって思うが、ずいぶんしつこいしゃべりだ。
もっといいトークがあったはずだ。


『…はい』

男性の小さめの返事を確認し、また裏へ。
裏へ戻った瞬間、

ピンポーン

とチャイムの音がする。
客は、男性一人だけ。
それ以外の入店はない。

『誰や?』

と思いつつ確認すると、唯一の客である男性のテーブル番号が表示されている。


料理を持って行ってすぐ呼び戻される時は、大体こちらにミスがある。
シルバーが足りないとか、頼んだものと違うとか、最悪なのは、料理に虫や髪の毛等が入っている時だ。
一度、付け合わせの中でプレスされて死んでいるカトンボを見せられたことがある。
あの時は、謝るよりも先に『何で?』と言ってしまった。

行動を振り返る。
三点セットは持って行った。
オーダーの確認もした。
伝票に間違いがないことも確認した。
お箸も持って行った。

これだけ振り返って、ミスは見当たらない。
だとすれば、最悪の事態が起こったと考えが至るのにさほど時間はかからない。
顔を強張らせながら席へ近付き

『どうかしましたか?』

と何にも気付いてないかのような質問をぶつけた。
男性は静かな怒りの表情を浮かべている。
しばしの沈黙の後、男性は口を開いた。


『小せえよ』


『…はい?』


『小せえっつってんだよ!』

???



『あの、そちら「小さなイクラ丼」ですが…』

『だから小せえっつってんだよ!』


男性は「小さなイクラ丼」が、自分が想像していたものよりも小さかったことに腹を立てていたのだ。
確かに、バイト仲間とも、量の割に高いとか、もっと大きくてもいいんじゃないか、と話したことはあった。
しかし、メニューにはちゃんと
「『小さな』イクラ丼」
と書いてある。
ジャイアント馬場が大きいからといって怒っている人を見たことがないのと同じで、「『小さな』イクラ丼」が小さいからと怒られても、どうしていいのかわからない。

『あの、ですから、そちら「小さなイクラ丼」ですので…』


『だから小せえんだよ!』

ここでスイッチが入った。


メニューを開き、男性の眼前に突き付け、指差しながら

『だから「小さなイクラ丼」なんですって!』

なんて態度の悪い店員だろう?
自分がこんな態度で接客されたら、泣いてしまうだろう。
しかし、男性は芯が強く、泣いたりせずに

『小せえんだよ!』

の一点張り。

妥協点を見つけないと、このまま朝を迎えかねない。

『じゃあ、いらないんですか?』
という、よく考えると失礼極まりない質問をぶつけると

『いらねーよ!ライス持ってこい。』

との返答。


おぼんに小さな「小さなイクラ丼」だけ乗せて、裏に戻り、ライスをオーダー。
するとキッチンから、

『あれ?オーダーミス?』

と、至極真っ当な質問。

『違いますよ!「小さなイクラ丼」が小さいとのクレームです。』

キッチンの人は顔に2桁以上の疑問符を浮かべていた。

その後は、男性はライスを食べ、僕は「小さなイクラ丼」を食べ、「小さなイクラ丼」の料金もきっちりもらって一件落着。

自分のバイト史上最もわけのわからない客の話は、日記史上最も時間のかかった日記となりました。(所要時間:約2時間)

ここまで読んだ人、ありがとう!

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